ミステリーは止まらない〜鎌倉・由奈伝説〜

2.進 路

 

第23話

Writer:星野さゆる

 

 

 

 

 その夜おそく・・・。

 

 Tururu・・・・・・Tururu・・・・・・

 

由奈「もしもし、高岡ですが・・・智菜ちゃんは?」

―おじょうさんなら、お部屋ですので・・・少々お待ち下さい。

 

  倫子さん、眠そうな声・・・悪かったかな?

 

智菜―由奈、久しぶり。元気?なわけないかぁ。

由奈「あんた、遥と私のこと・・・

   ううん、それより、『BLUE』のライブの常連ってホント?」

智菜―うん、ホントだよ。あのバンドは変わった。上手くなった。

   そして、どんどん上手くなっていくのよ。すごいよぉ。

由奈「そーなんだ。じゃ、聞くけど。リカに遥とのこと話したのもホント?」

智菜―そのことかぁ。ごめーん。つい口すべらしちゃって・・・・・・

由奈「今は遥のことは考えたくなかたのにな。」

智菜―だからあやまってるのにぃー。

由奈「これからは気をつけてよね。それに・・・」

 

 由奈は智菜が『BLUE』のライブの常連客になって

 いりびたっているという話の続きをしようとしたが、やめた。

 

智菜―それに・・・何よ!!

由奈「何でもない。体に気をつけてね。」

智菜―わかってるって。 おやすみー。

由奈「おやすみ。」

 

 

 

 

 智菜は「BLUE」のライブの常連客になっていた。

 忙しいスケジュールの合間をぬうようにして、必ずといっていいほどいつも、

 由衣と一緒にライブへと足を運んでいた。

 

 

 そんなある日、ライブ会場の楽屋で・・・

 

和馬「オレたち、プロになれると思いますか?」

 一瞬の沈黙があった。

 いきなり、しかも自分に聞かれても困ると智菜は思った。

 が、そう言ってしまうのもかわいそうな気がして、こう言った。

 

智菜「『なれる』なんて無責任なこと言えないケド・・・

   私は、あなたたちの音楽、好きになった。

   昔は下手だったケド・・・心にも響かなかったし・・・

   今は日に日に上手くなるし・・・心に響いてくるよ。」

和馬「あの頃は、プロになろうなんて思ってなかったんだ。

   でも、あなたがオレたちを否定したから、だからオレたちは変われたんだ。

   変わろうって思えたんだ。」

 

 智菜はその時やっと、和馬の目的が見えた気がした。

 智菜を利用してプロになるきっかけをつかもうという・・・・

 悔しかったが、冷静に話を続けた。

 

  

智菜「私、あなたたちの力にはなれないわよ。

   そりゃぁ、『BLUE』の音楽は好きだけど、

   私にはあなたたちをプロに導くような力はないし・・・・・・

   それに夢は自分の手でつかむものでしょう?」

由衣「でも、智菜。あなたが取材とかのときに気に入っているバンドとして

   名前をあげてくれれば・・・・・・」

智菜「それくらいならできるかもしれないケド・・・でも・・・」

 

 

 ひと呼吸おいて智菜は続けた。

 

智菜「プロになっちゃったら、もう『BLUE』に

   会えないような気がして・・・。

   音楽の世界と演技の世界ってぜんぜん違うもの。」

 

 

 その時、和馬が顔を真っ赤にして話しはじめた。

 

 

和馬「オレ、智菜さんを利用しようとなんて・・・もう思ってないよ。

   そりゃぁ、最初はそう思ってた。でも・・・・・・

   あなたが何度もライブに足を運んでくれるようになって・・・

   楽屋にも遊びに来てくれるようになって・・・

   女優さんなんだからってわかってても・・・・・・

   好きになっちゃったんだ。

   だから・・・オレだって離れるのはイヤだよ。」

 

 

 由衣は和馬が智菜のことを好きになっていることに、以前から気づいていた。

 が、智菜には言わなかった。

 「BLUE」をプロにしたかったから・・・

 が、和馬の言葉ではっきりと思い知った。

 和馬の想いの強さと、自分が和馬のことを好きになっていたことを・・・。

 

 

智菜「突然言われても・・・でも、私、藤井クンのこときらいじゃないよ。」

 

 

 そして由衣は思った。

 自分の恋は終わったと。短い恋だったと・・・

 

 

 実際、その1週間後、智菜は和馬に

 『やっぱり私も好きだよ』という返事をして、恋人になった。

 

 

 そして由衣は、自分の気持ちを心の奥にしまいこみ、

 2度と「BLUE」のライブ会場へはあらわれなかった。

 

 

 

 

 


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