ミステリーは止まらない〜鎌倉・由奈伝説〜
1.由奈と遥
第27話
Writer:星野さゆる
10月の末のことだった。 亮は再び高岡家にあらわれた。 由奈は受験勉強に力を入れはじめていたので、自室にこもっていた。 亮「由奈ちゃん、少しだけ話ができないかな?」 ドアの向こうから、声がした。 由奈は遥の言葉を思い出し、警戒しながら答えた。 由奈「どうぞ。」 亮「由奈ちゃん、あのさぁ・・・」 亮は話しながら部屋へと入ってきた。 亮「僕、ずっとおもってたんだけど・・・君のことさぁ・・・」 亮はすり寄るように由奈のそばへ寄ってきた。 そして、亮の顔は由奈の顔のそばまでちかづいてきた。 由奈が気づいた時にはもう遅かった。 亮の手が由奈の顔を押さえつけていた。 亮「好きだ・・・・・・」 亮の唇が由奈の唇の上に重なった。 熱い・・・ 少しの間、由奈は放心状態だった。 われに返った由奈はバチンと亮の頬をたたいた。 由奈「何すんのよっ!!」 亮をにらみつけて叫ぶ。 亮「好きなんだ・・・」 由奈「私、そんな風に考えたことないし・・・それに、いきなり・・・」 由奈は泣き出してしまった。 悔しかった。 警戒していたはずだったが、まさかこんなことをされるとは思っていなかった。 それに、由奈にとってはじめての・・・ はじめてのキスだった。 大好きな人と・・・って由奈なりに夢見ていた。それがこんなかたちで・・・ 色々な思いで悔しかった。悲しかった。 亮「ごめん。由奈ちゃんの気持ち考えられなくって・・・」 泣きつづける由奈との間のきまずい空気に耐えられなくなり、 亮は部屋から出ていった。 その後、亮は由奈の前にあらわれなかった。 由奈はやっと整理のつきはじめていた頭が、再びめちゃくちゃになって しまっていた。 由奈「遥・・・・・・私ってダメな人間なのかなぁ。」 遥「また何かあったのか?」 由奈「もう、ダメだよ。耐えらんないよ・・・・・・」 由奈は、言い終えるか終えないうちに遥に抱きついた。 遥「由奈・・・・・・」 めちゃくちゃになってしまっている由奈を抱きしめる腕の力を強くし、 遥はつぶやいた。 そして、気づいた。 由奈はめちゃくちゃになってしまうと必ず遥に抱きつくということに・・・。 今はどうでも良いことだったが。 由奈「ごめん。またやっちゃった。でも私、遥がいなかったら 生きてなかったよ。」 遥「由奈・・・」 智菜がふたりに忠告するように言う。 智菜「由奈、遥くん、みんなの注目の的だよ!!」 そう、ここは由奈の部屋でも、遥の部屋でもない。 教室なのだ。 由奈「やっぱり、迷惑だよね。遥にばっかしたよっちゃって・・・」 顔をあげ、真っ赤な目で遥に訴えかける由奈。 遥「いいよ。ひとりで悩まないでオレにだけは必ず話せよ。 幼稚園の時、約束しただろ。何でも話すって。 そしてこの間も・・・・・・。」 そう言って抱きしめる腕の力を一層強くする、遥。 由奈「でも・・・迷惑かけたくないよ。遥には。」 まだ遥に抱きしめられたまま、上目づかいで、訴えるように話す由奈。 遥「お前、昔っからそうだよな。まず自分のことを考えろよ。」 ふたりの間に沈黙が続いた。 そして、注目していたクラスのみんなも静まりかえった。 遥「オレ、わかったんだ。夕里のこと好きなつもりでいたケド、 そうじゃなかった。お前のことが一番大切だった。ずっと。」 由奈「・・・・・・」 遥「お前につらい思いはさせたくないんだよ!」 由奈「遥・・・・・・私、ダメだよ。だって・・・」 きのうの夜のことを思い出していた。悪夢のようだった。 たとえ自らの意思とは反していても、亮とキスしてしまったことが 許せなかった。 もう頭の中がめちゃくちゃだった。 由奈「私、遥に迷惑をかけることしかできないもん・・・」 遥「それでもいいよ。」 遥は由奈の潤んだ瞳を見つめて言った。 周囲のクラスメイトたちは息をのんでふたりのやりとりを見守っていた。 由奈「でも・・・」 由奈はそれっきりだまってしまった。 何も言えなかったのだ。 幼稚園の頃の約束も決して忘れてはいなかった。 そして、もうひとつの約束・・小学3年生の頃の約束も・・・ 「結婚して、いっしょに暮らそう」という。 でも、今の由奈には何も言うことができなかった。 |
第一部 了
第二部へつづく
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