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Anniversary

記念日2:雨の桜並木 前編


 霧雨が降る朝だった。
 真新しい紺のスモックを着せられたオレは、水色の傘をさし、
 ピンクの着物姿の母に手を引かれながら歩いていた。

   「どうして幼稚園に通わなくちゃダメなの?」

 幼いオレは、何度もくりかえし母にたずねた。
 が、納得できる答えは1度も返ってこなかった。

 姉も兄も保育所に通っていた。だから自分もそうだと思っていた。
 しかも、幼稚園には、ばあちゃんの家から通わなければいけないというのだ。
 オレは自分だけがまるで捨てられた子犬のように感じていた。

 園につづく桜並木は雨でじっとりと濡れていた。
 まるでオレの心のように・・・。






 園に近づくにつれ、暗い気持ちは大きくなっていった。
 本当は泣き出してしまいたかった。
 でも、そんな時はいつも彼女のことを思い出していた。

 彼女が言っていた。

「おひざ、いたいの?男の子は泣いちゃダメだよ!」

 痛いのはひざではなかったけれど、あの子の言葉は忘れられなかった。

 あの日以来、1度も会えなかったゆなちゃん。
 泣いてしまったら2度と会えなくなるような気がしてた。





「ようくん、上履きにはきかえるのよ。」

 こぼれそうな涙を必死にこらえ、母の言うようにピカピカの上履きを履いた。
 母に手を引かれるままに、園舎の中へと進んだ。

 ガラガラッと母が古い引き戸を開けると、もわ〜んと湿ったぬるい空気が出てくる。

 うわっ、やなカンジ・・・

「ようくん、ここが教室よ。」

 うつむいたまま、うなずく。

 幼稚園なんて嫌いだ・・・・。

「ようくん、このシールが貼ってあるのがようくんのものだからね。」

 そう言って母が青い船のシールを見せる。
 返事もせずに、船のシールが貼られたイスに座った。

「じゃ、お母さんは後ろの席にいるからね。先生のいうことよーくきいてね。」

 そういい残して母はそそくさと父兄席にいってしまった。

「はぁ〜・・・」

 母がそばからはなれたことで、ついため息をついてしまった。
 が、ため息をついたことでオレは少し落ち着いた。

 まわりを見回すと、落ち着きなく走り回っている男の子たちが数人。
 いつまでも母親としゃべっている半べその男の子が数人。
 女の子たちはほとんどみんな、お行儀よくイスに座っていた。
 その中にそわそわと立ったり座ったりをくりかえす女の子がひとり・・・

   あ・・・・・







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